食べ聞かせ



「炒り玉子」


記憶に残っている中で、私が一番最初に一人で作った料理は『炒り玉子』だったと思います。
おそらく3歳か4歳でしょうか。もちろん家でも作っていたとは思うのですが、
私が鮮明に覚えているのは、ご近所のお家で作った時のことです。
きっと母か誰かが、私が卵を焼けるとその家の人に言ったのでしょう。
 
ある日、仲良しのその家のおじさんが私に向かって、
「おまえ玉子焼きできるんやって!おっちゃんにも作ってくれ!」と笑顔で言ってきました。
「え〜、いいけど炒り玉子やでぇ」
なんてぶっきらぼうに返しながら、私は内心嬉しくてたまりませんでした。
いそいそとお家に上がりこみ、おもしろそうに、でも心配そうに見守る
おじさんの前で自慢の炒り玉子を披露したわけです。
卵を割り、お箸で溶き、玉子焼き器を温め、油を敷き、卵を流し込む。
 
じゅわ〜じゅ〜・・・ぐしゃぐしゃぐしゃ
 
「炒り玉子やから簡単や!」なんて生意気を言っていたのですが、
当時はまだ子供で、味をつけるなんて考えはチラリとも思いません。
ただ焼いただけの炒り玉子です。
きっと味もなくて美味しくなかったでしょう・・・。
でもおじさんは「おいしい、おいしい。コックさんになれるわ!」と喜んで食べてくれました。
思えば、家族以外の人に自分が作ったものを食べてもらったのは、
この時が初めてだったかもしれません。それだけに、今も強く記憶に残っているのでしょう。
 
料理を作ることは楽しい。
でも、それを喜んで食べてもらえると、もっと嬉しい。
理屈でなく、素直にそう思えた出来事でした。
 
 
 


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